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    よそは住宅難だが、伊東には売家も貸家も多い。伊東は海山の幸にめぐまれて食糧事情がよかったが、東京も食糧事情がよくなったので、不便を忍んで通勤していた人たちが東京へ戻りはじめたのである。

    房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、

    「ふうん。ひどい奴だねえ」

    喜作はふりかへつた。そこへ房一も登りついた。三人は瞬間顔を見合せた。そこに、房一は自分よりは二つ三つ若い、だが禅坊主のやうな頭骨をした精悍な表情の神原喜作を見た。

    「水神淵を知つとんなさるだらう」

    とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。

    「へえ、どういふわけでせう」

    房一はその時逸いち早く、横に寝かされている男の投げ出した手首に血がかすりついているのを、そして寝ながら立てている片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みているのを見てとつた。

    彼はそれを云ひに来たのだつた。

    と訊いた。

    「あゝ、高間さんの奥さん。――さうですね」

    小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。

    「どれ一つ診ませうかな。――ふうむ、これあどうしたのかね、ハッパでやられたのか」

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