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と、さつき目にもとまらぬ速さで腕にさはつたときと同じく、軽くすつと身をひくやうにしたかと思ふと、もう背を向けてそゝくさと葭子張りの便所に入つて行つた。――
ところが、徳次はぽかんとした表情を浮かべたきりだつた。
「それは、せんせいのお考へに任せますわ。――ですが、今日のことは、ほんの内輪の間違ひやさかい、そのことは含んどいてもらはんと困ります。よろしいな。――内輪のことや」
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「うん」
神原喜作は、殊に自分が最初に口火を切つた責任者だといふ自覚があるらしく、あのづぶ濡れになつた下半身がいつのまにか生乾きになり、寒さのために硬はゞつた裾をばくばくさせ、方々を歩きまはつて説いた。練吉はその間、一種異様な緊張さを現していた。彼は、ごくたまに目瞬きをしていたが、顔はかつて見せたこともないやうな生真面目さで蔽はれ、時々さつと青ざめ、焚火の前に来ると俄かに紅らみ、絶えず房一の傍から離れなかつた。
と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。
「をかしいから笑つたのだ」
房一は笑つていた。
練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
「よし。――さうしとかう」
「や、さあお上り下さい。さあ――」